ソーラーシェアリングによる農業の軌道が見えてきた今、茅根太造氏はさらに先を見据えています。次なる目標は、AI(人工知能)やヒューマノイドロボットといった最新テクノロジーを積極的に活用し、農業の効率と持続性を飛躍的に高めることです。例えば、ビニールハウス内には温度・湿度・日射量を24時間体制でモニタリングするセンサーが張り巡らされています。蓄積されたデータから、自動で遮光カーテンを開閉したり換気扇を制御したりすることで、最適な生育環境を維持します。圃場では、自走式の小型ロボットがヒューマノイドの腕に似たアームで雑草を抜き取り、収穫時期になると果実の色づきをカメラで判別して収穫補助を行う――そんな未来も夢ではありません。太造氏は「人とロボットが協働する農業」に着目し、労働力不足が深刻化する中山間地域でも営農を続けられる仕組みづくりにチャレンジしようとしています。 こうしたスマート農業の導入によって、これまで重労働だった農作業は大きく様変わりするでしょう。高齢の農家でもロボットの操作やAIの指示に従うことで無理なく農業を継続でき、若い世代にとってもITスキルを活かせる先進的な産業として農業が映るかもしれません。実際、茅根電設工業では社用車に電気自動車を導入し、農場内の電力は可能な限り太陽光でまかなうなど、脱炭素とハイテク化を同時に推進しています。
災害時には自社の太陽光発電システムで地域住民に充電用の電気を提供できる体制も整備しており、地域の防災拠点としての役割も果たそうとしています。
まさにエネルギーと食糧の地産地消を実現し、持続可能な地方の暮らしをテクノロジーで支える取り組みです。 こうした取り組みには行政も注目しています。茨城県は県北地域の新産業育成として太造氏の事業を支援し、ビジネスプログラムへの採択や補助制度を通じたバックアップを行い始めました。実際、「常陸太陽の庭」では首都圏在住の社会人を副業という形で受け入れ、トマトのブランドコンセプト策定や都会向けマーケティング戦略の協働プロジェクトも進められました。
外部の新しい視点を取り入れ、地方発の農産物を洗練された商品に高めていく試みは、農業を稼げる魅力的な仕事に変えていく上で重要なステップです。
産官学や都市と地方の垣根を越えた連携が、生まれ変わろうとする常陸大宮の地に少しずつ広がっています。 茅根氏の描く未来像は、地方再生のひとつの形でもあります。広大な土地と自然に恵まれた地方こそ、再生可能エネルギーと先端技術を活用した次世代農業の舞台にふさわしいという信念があります。使われていない土地に太陽光パネルと作物が共存する風景は、美しい里山を守りながら地域に新たな収入源をもたらします。そこにAIやロボットが加われば、生産性は飛躍的に向上し、都会に依存しない自立したコミュニティ経済が築かれるでしょう。若者たちが最新のスマート農業を学ぶために地方に移り住み、逆に都市部へエネルギーと食料を供給する——そんな逆転現象も夢ではありません。太造氏の挑戦は、小さな電気工事会社が始めた取り組みですが、その視線の先には地域社会全体を巻き込んだ大きな変革の可能性が広がっています。 重要なのは、環境か経済かと二者択一に陥らず、双方を両立させる道を模索する姿勢です。太造氏の実践は、課題先進地とも言われる地方において「どちらも諦めない」解決策を生み出そうとしている点で注目されます。
この物語は、地方の持つ底力と可能性を示唆するものでしょう。さらに、「自分の遊休地も活用してほしい」「ソーラーシェアリングの技術を学びたい」といった声も寄せられ始めており、常陸大宮市内で同様の農園を増やす構想も動き始めています。小さな電気工事会社が始めた挑戦は、やがて多くの仲間を巻き込みながら、地域社会全体を変えていく原動力になるかもしれません。太陽の下で汗を流し、大地から命を育む——そんな当たり前の営みと最新テクノロジーが融合した未来が、常陸大宮の地から始まろうとしています。