工場電気設備の老朽化、放置の代償は火災と生産停止

はじめに


日本の多くの工場は、高度経済成長期やバブル期に建てられたものです。建物や機械が老朽化しているのは誰もが意識していますが、意外と見落とされがちなのが「電気設備の老朽化」です。


「まだ動いているから大丈夫」

「壊れたら直せばいい」


そう考えて放置した結果、突発的な停電や火災が発生し、生産が長期間ストップする。そんな事例は決して珍しくありません。


電気は目に見えないだけに、劣化のサインを見逃しやすいのです。本記事では、工場の電気設備老朽化がもたらすリスクと、その対策を10の視点から整理します。


1. 分電盤・配電盤の寿命は30年


工場の心臓部である分電盤や配電盤。ここに使われるブレーカー、母線、絶縁部品の寿命は一般に20~30年です。


30年を超えた盤は「まだ動いている」ように見えても、内部の部品は確実に劣化しています。銅バーが酸化し、接触抵抗が増え、異常発熱を起こす。これが火災の大きな原因となります。


更新の目安は「導入から20年以上」。まずは年次点検で劣化状況を調べ、更新計画を立てることが必要です。


2. ケーブルの被覆劣化は“見えない爆弾”


工場で使われる電力ケーブルは、絶縁被覆で導体を守っています。しかし熱・湿気・薬品・紫外線などの影響で、少しずつひび割れや硬化が進みます。


被覆が劣化すると、漏電や短絡(ショート)を引き起こしやすくなり、一瞬で大規模停電や火災を招きます。


特に「屋外配線」「熱源近く」「油を扱う場所」のケーブルは要注意です。定期的に絶縁抵抗を測定し、数値が落ちてきたら即交換が必要です。


3. 絶縁不良は火災のサイン


電気設備の事故原因の大半は「絶縁不良」です。

配線や機器の絶縁が弱まると、電気が漏れ、発熱し、やがて火災につながります。


絶縁不良の怖さは、「目に見えないこと」と「徐々に進むこと」です。

だからこそ、定期的な絶縁測定と赤外線サーモグラフィによる点検が重要です。


4. 古い遮断器は“止まらないブレーキ”


ブレーカー(遮断器)は異常が起きたときに電気を止める最後の砦です。

しかし古い遮断器は、いざというときに動作しないことがあります。これは「ブレーキの壊れた車」を走らせているのと同じです。


定期的に動作試験を行い、反応が鈍いブレーカーは即交換。命を守る最重要設備と心得るべきです。


5. トラッキング現象は“埃と湿気”から始まる


工場の分電盤やコンセント周りには、埃がたまりがちです。そこに湿気が加わると、埃が導電性を持ち、火花が飛ぶ「トラッキング現象」が発生します。


この現象は小さな火花から始まりますが、気づかずに放置すると火災に発展します。盤内清掃と除湿は、最も安価で効果の高い予防策です。


6. 停電が引き起こす“生産ライン崩壊”


老朽化による突発停電は、生産ライン全体を止めるだけでなく、製品の不良率を急増させます。


・半導体製造ラインでは、わずか数分の停電で数千枚のウェハーが廃棄に

・食品工場では、冷却途中の製品が傷み、在庫ごと処分に


老朽設備の放置は、単なる“修理費用”ではなく“売上の喪失”という形で経営に直撃します。


7. 停電復旧には“数時間~数日”かかる


突発停電が起きた場合、復旧には平均して数時間、場合によっては数日かかります。


その間、生産は止まり続け、取引先への納期遅れ、信用低下、残業対応など二次的被害が拡大します。

「壊れてから直せばいい」という考えは、実際には大きなリスクを抱える選択なのです。


8. 更新費用は“投資”と考える


老朽設備を更新するのに数百万円かかる場合もあります。

経営層から「まだ動いているのに、なぜ替えるのか」と問われることも多いでしょう。


そのときは、「更新費用 500万円」 vs 「生産停止による損失 1時間で1,000万円」という比較を示すことです。

電気設備の更新は“コスト削減”ではなく“損失回避の投資”と説明するのが効果的です。


9. IoT診断で“壊れる前に気づく”


最近では、IoTを活用して設備状態を常時監視する仕組みも登場しています。

盤やケーブルにセンサーを取り付け、温度・電流・振動をリアルタイムで監視。異常の兆候を早期に検知することで、突発的な停止を防げます。


“壊れてから直す”時代から、“壊れる前に直す”時代へ。工場の信頼性を高めるための次世代投資です。


10. 計画的更新こそが“最大の省エネ”


老朽設備は、事故リスクだけでなく、効率の悪さから電気を無駄に消費しています。

古い変圧器やモーターを更新するだけで、電気代が大幅に下がるケースも珍しくありません。


つまり、計画的な更新は「安全」と「省エネ」の両方を実現する一石二鳥の施策なのです。


おわりに


工場の電気設備の老朽化を放置することは、火災や停電による生産停止という最悪のリスクを抱えることです。


分電盤やケーブルの寿命を意識する


定期点検で絶縁不良やトラッキングを防ぐ


突発停電の損失を数字で経営層に示す


計画的な更新を“投資”と捉える


これらを徹底することで、「止まらない工場」「燃えない工場」を実現できます。


電気は目に見えないからこそ、担当者の先手の判断が命運を分けます。

「壊れてから直す」ではなく「壊れる前に守る」 ――それが、これからの工場に必要な電気工事のあり方です。