はじめに
工場にとって電気は血液のようなものです。もし血液が止まれば人間が動けなくなるように、工場も電気が止まった瞬間に生産がストップします。しかも、その損失は計り知れません。
たとえば、自動車工場でラインが1時間止まれば、何百台もの車が作れず、数千万円規模の売上が消えます。食品工場で冷蔵設備が止まれば、原材料が廃棄になり、さらにブランドイメージまで損なわれます。
ところが現場では、「まだ動いているから大丈夫」「予算が厳しいから後回し」という理由で、電気設備の更新や点検が先送りにされがちです。その結果、「ある日突然の停電」が起き、大きな代償を払うケースが後を絶ちません。
この記事では、工場の電気を止めないために、発注担当者や設備管理者が知っておくべき心得を10のポイントにまとめました。
1. 電源二重化は“お守り”ではなく必須条件
工場の受電は通常1ルートです。もしそのルートが断線したり、変圧器が故障すれば、工場全体が止まってしまいます。特に単一受電の工場はリスクが非常に高い。
そこで重要なのが「電源の二重化」です。受電設備を2ルート用意する、発電機を併設する、主要ラインだけでもUPS(無停電電源装置)を備えるなど、代替ルートを確保しておくことが工場の生命線を守ります。
投資額は数百万円~数千万円にのぼることもありますが、生産停止1時間の損害と比較すれば安いものです。
2. 老朽化した分電盤は“時限爆弾”
分電盤や配電盤は工場の心臓部。そこに古いブレーカーや劣化した母線(バー)が残っていれば、火花・発熱・発火のリスクを常に抱えています。
「まだ動いているから大丈夫」と油断してはいけません。盤の寿命は20~30年。外見がきれいでも、中の絶縁体は劣化し、埃や湿気でトラッキング(漏電の一種)が起きやすくなっています。
突然の発火やショートは、工場の稼働だけでなく、人命や建物にも影響します。定期的な赤外線サーモチェックや、更新計画を立てることが必須です。
3. 定期点検は“義務”ではなく“保険”
法律で定められた年次点検だけやっていれば十分、と思っていませんか?
実際の故障原因の多くは、法定点検では見つからない日常的な劣化です。
たとえば:
ボルトのゆるみ → 加熱して焼損
ケーブルの被覆劣化 → 漏電
埃と湿気 → トラッキング火災
これらは、半年に一度の自主点検や巡視点検でしか見つかりません。点検費用をケチるのは、一見節約に見えて、実は大きなリスクを抱えることになります。定期点検は“安心を買う保険”と考えるべきです。
4. 停電工事は“最小限の時間”に抑える
どうしても停電を伴う工事は発生します。問題は、その時間をいかに短く、確実に終わらせるかです。
そのためには:
仮設電源を事前に準備する
生産計画に合わせて停電時間を決定する
工事の手順を分単位でシミュレーションする
これらの準備があるかないかで、停電時間は大きく変わります。現場任せにせず、発注側も「どうやって短く終わらせるのか」を必ず確認しましょう。
5. 電気工事会社は“値段”ではなく“経験”で選ぶ
工場の電気工事は、一般の建物よりはるかに複雑です。高圧設備、特殊機械との接続、24時間稼働の制約など、経験がなければ安全にこなせません。
見積りが安いからという理由だけで選ぶのは危険です。必ず「工場での実績があるか」「停電工事の経験があるか」「緊急対応ができるか」を確認してください。電気工事会社はコスト削減の対象ではなく、工場を守るパートナーとして選ぶことが重要です。
6. 投資は“コスト”ではなく“リスク対策”
電気工事の提案を経営層に通すとき、もっとも効果的なのは「数字」です。
例:
工事費用:500万円
生産停止による損失:1時間で1,000万円
この比較を出せば、経営層は納得します。「投資をしないことこそ最大のリスク」であると数字で示すことが、担当者の最大の武器です。
7. IoT監視で“止まる前に気づく”
近年はIoTセンサーを使った監視システムが普及しています。配電盤やケーブルにセンサーを設置し、温度や電流を常時監視することで、異常の予兆をつかめます。
「止まってから直す」時代は終わりました。これからは「止まる前に直す」時代です。小さな投資で大きな損失を防ぐ、まさに未来の工場に必要な仕組みです。
8. 緊急対応フローは“マニュアル化”して共有する
停電や火災が起きたとき、誰に連絡すればいいか。どの順番で復旧作業を進めるか。これが決まっていない工場は意外と多いものです。
「誰も担当者が分からず、復旧に数時間かかった」
「夜間にトラブルが起き、業者に連絡できなかった」
こうした混乱を防ぐために、緊急対応フローをマニュアル化し、工事会社とも共有しておくことが必須です。
9. 電気担当者は“工場の守護者”
ライン効率や生産性の裏には、必ず「止まらない電気」があります。その電気を守るのは、担当者であるあなたです。
「この盤は来年更新する」
「この停電工事は土曜日に行う」
その一つひとつの判断が、工場を守り、数千万円の損失を防ぎます。電気担当者は裏方ではなく、経営を支える守護者なのです。
10. 止まらない工場を未来に残す
発注担当者が意識すべきは「今の工事を安く済ませる」ことではなく、「10年後も止まらない工場を残す」ことです。
・計画的な更新
・信頼できるパートナー
・将来を見据えた投資
これらを組み合わせてこそ、工場は安心して未来に進めます。
おわりに
工場にとって電気は「空気」のような存在。普段は当たり前に使えますが、止まった瞬間に全員がその重要性を思い知ります。
だからこそ発注担当者は、「電気が止まると生産も止まる」という事実を胸に刻み、日々の点検や更新、そして電気工事の判断に責任を持たなければなりません。

