はじめに
ここ数年、電気代の高騰は工場経営にとって大きな悩みの種となっています。
エネルギーコストが利益を直撃し、「せっかく生産が伸びても電気代で利益が消える」という声は全国の工場で聞かれます。
そんな中、「省エネ投資」に注目が集まっています。照明をLEDに変える、省エネ型モーターやインバータを導入する、太陽光や蓄電池を設置する――こうした取り組みは確かに効果的です。
しかし忘れてはならないのは、省エネ効果の大きさは“電気工事の設計力”で決まるということです。
同じ機器を導入しても、設計や施工次第で効果は倍にも半分にもなります。
この記事では、「電気工事の設計」を中心に、工場の省エネ投資を成功させる10のポイントを紹介します。
1. 省エネの第一歩は“見える化”
何にどれだけ電気を使っているのか、把握できていますか?
「工場全体の電気代はわかるけど、どのラインがどれくらい消費しているかは知らない」
――これは多くの工場で共通する問題です。
見える化をしないまま省エネを始めても、闇雲な削減にしかなりません。
分電盤ごとにエネルギーメーターを設置し、設備ごとの消費電力を“見える化”することが最初の一歩です。
2. 高効率変圧器への更新は“即効薬”
古い変圧器はそれだけで電気をロスしています。
高効率型の変圧器に交換することで、待機損失を大幅に削減できます。
特に24時間稼働している工場では、電気を使わない時間帯がほとんどないため、変圧器の更新効果は非常に大きいのです。
3. 力率改善で“無駄な電気代”を払わない
工場では、大型モーターや溶接機の使用で「力率」が悪化することがあります。
力率が下がると、実際には使っていない“無効電力”まで契約電力に加算され、余分な電気代を支払うことになります。
コンデンサによる力率改善設備を導入すれば、余分な電気代をカットし、契約電力を適正化できます。
4. インバータ制御でモーターを賢く動かす
モーターは工場で最も電力を消費する機器の一つです。
ポンプや送風機をインバータ制御に変えることで、必要な分だけ回転数を調整でき、大幅な省エネにつながります。
「とりあえず100%で動かしておく」という古い運用をやめれば、10~30%の削減はすぐに実現できます。
5. デマンド監視でピーク電力を抑える
契約電力は“ピーク”に合わせて決まります。
1年間で最も電力を使った30分間の平均が、その後の電気料金に直結します。
つまり、「1年でたった1回のピーク」が、毎月の固定費を押し上げているのです。
デマンド監視装置を導入すれば、ピークに近づいたときにアラームを出したり、不要な設備を自動的に停止させたりできます。
6. LED化は“ただ交換する”だけでは不十分
LED照明は省エネの代表例ですが、単に既存の蛍光灯をLEDに替えるだけではもったいない。
照度分布を見直して「本当に必要な場所だけ明るくする」設計をすれば、照明器具の本数自体を減らすことも可能です。
また、人感センサーやスケジュール制御を組み合わせれば、さらに削減効果が高まります。
7. 太陽光+蓄電池は“工場の守りと攻め”
再生可能エネルギーの導入は、もはや環境対応だけでなくコスト削減の戦略です。
日中は太陽光で発電し、工場で消費
夜間や停電時には蓄電池でバックアップ
この組み合わせは「省エネ」と「BCP(事業継続計画)」の両方を実現します。
ただし、導入効果は系統設計や負荷特性に左右されるため、経験豊富な電気工事会社と組むことが必須です。
8. 設備更新は“ROI”で判断する
経営層に省エネ投資を説明するとき、最も説得力があるのは「ROI(投資回収年数)」です。
投資額:1,000万円
年間削減額:250万円
→ ROIは4年
この数字を示せば、経営層は投資を前向きに検討しやすくなります。電気担当者は「数字で語れる力」を身につけるべきです。
9. 運用の工夫も“立派な省エネ”
工事による投資だけが省エネではありません。
昼休みに不要な機械を止める
空調温度を1℃上げる
夜間は照明を半分にする
こうした運用改善も、省エネ効果として積み上がります。電気工事と運用改善を組み合わせることが、最大の効果を生みます。
10. 省エネは“一度きり”ではなく“続けること”
省エネは「1回やって終わり」ではありません。新しい設備を入れても、数年後にはまた効率の良い機器が登場します。
重要なのは、省エネを「習慣化」することです。定期的に見直し、省エネ工事を段階的に重ねることで、工場全体のエネルギー効率は確実に向上していきます。
おわりに
工場の省エネ投資は、導入する設備そのものよりも「電気工事の設計」で成果が決まります。
見える化でムダを発見する
高効率機器を正しく選ぶ
デマンド監視やインバータで運用を最適化する
太陽光+蓄電池で未来への投資をする
この流れを押さえれば、電気代は確実に削減できます。

