AI時代、電気は「使うだけ」から「備えて、選んで、動かす」時代へ
暑い日の午後、事務所や工場ではエアコンが一斉に動き、機械やパソコンもフル稼働します。照明はいつも通り点き、コンセントに差せば当たり前のように電気が使える。私たちは普段、その向こう側にある発電所や送電線、変電所のことを意識することはほとんどありません。
しかし今、その「当たり前」が大きく変わろうとしています。
きっかけの一つが、生成AIの急速な普及です。AIは画面の中だけで動いているように見えますが、実際には大量のサーバーが計算を続け、そのサーバーを冷やすためにも電気を使います。2026年1月に電力広域的運営推進機関が公表した需要想定では、データセンターと半導体工場の新増設による最大需要電力は、2026年度の83万kWから2035年度には762万kWへ増える見通しです。年間の需要電力量も、同じ期間に67億kWhから568億kWhへ拡大すると見込まれています。
人口が減り、省エネ機器が普及すれば、日本の電力需要は下がり続ける。長い間、私たちはそう考えてきました。ところがAI、データセンター、半導体工場、EVなどの広がりによって、電力需要は再び増加する方向へ動き始めています。電気はこれから、単なる光熱費ではなく、地域や企業の成長を左右する重要な経営資源になっていくのです。
「電気が足りる」と「何もしなくてよい」は違う
2026年度の夏について、国は全国すべてのエリアで、安定供給に最低限必要とされる予備率3%を確保できる見通しを示しました。一方で、東京エリアでは厳しい暑さを想定すると、公募で追加の供給力を確保することなどを前提に3%を上回る見通しとされています。電力広域的運営推進機関も、6月下旬から供給力と燃料の両面で毎週モニタリングを続けています。
つまり、すぐに電気が足りなくなるという話ではありません。しかし、記録的な猛暑、発電設備の故障、燃料価格の変動が重なれば、電力の余裕が小さくなる可能性はあります。電気は大量にためておくことが難しく、使う量とつくる量を、その瞬間ごとに合わせなければなりません。電力会社や国任せにするだけでなく、使う側も「いつ、どこで、どれだけ使っているか」を知ることが大切になっています。
電気代対策は、節電の我慢ではなく「設備の運転改善」
この夏は、2026年7月から9月の使用分を対象に、国による電気・ガス料金の支援が実施されています。標準的な家庭では3か月で5,000円程度の負担軽減が見込まれています。家計や企業にとって助かる制度ですが、支援はあくまで一時的なものです。支援が終わった後も、電気の使い方そのものは残ります。
また、東京電力エナジーパートナーは2026年4月、高圧・特別高圧向け標準メニューの条件を見直しました。プランによっては基本料金単価を低くし、電力量料金単価を高くする変更も行われています。これからは「契約電力を下げれば終わり」でも「安い電力会社へ替えれば終わり」でもありません。年間の使用量、ピークが出る時間、設備の稼働状況、料金プランを一緒に見なければ、本当の削減効果は分かりにくくなっています。
現場でよくあるのは、古い空調機が力いっぱい動き続けている、使っていない場所の照明や換気扇が消えない、複数の大型機器が同じ時間に起動する、といったケースです。こうした無駄は、働く人が暑さや暗さを我慢しても解決しません。
まず30分ごとの使用電力を見える化する。次に、照明のLED化、空調の更新や清掃、タイマーや人感センサーの活用、機器の起動時間の分散、デマンド監視などを組み合わせる。大切なのは、「使わない」ことではなく、「同じ仕事を、少ない電気で安全に行う」ことです。設備の種類や稼働時間によって正解は異なるため、数字を確認せずに高額な機器から導入するのはおすすめできません。
猛暑のときほど、古い電気設備を見直したい
もう一つ、夏に忘れてはいけないのが設備の老朽化です。気温が高い時期は空調の使用が増え、分電盤や配線に流れる電流も大きくなりやすくなります。そこに、端子の緩み、ほこり、湿気、機器の経年劣化が重なると、異常な発熱や故障につながることがあります。
電気設備は、壊れる直前まで普通に動いているように見えることがあります。「昨日まで使えたから、今日も大丈夫」とは限りません。焦げたようなにおいがする、ブレーカーが以前より頻繁に落ちる、分電盤から音がする、コンセントやプラグが熱い、照明がちらつく。こうした変化は、設備からの小さな警告かもしれません。
特に、店舗や工場の休業日に合わせて改修しなければならない設備は、故障してからでは工程を選べません。部品の手配、停電時間、仮設電源、営業や生産への影響まで考えると、計画的な点検と更新のほうが結果的に負担を抑えられることがあります。
点検というと、大がかりな工事を想像されるかもしれません。しかし最初に必要なのは、設備の年式や図面を確認し、負荷電流、端子部の温度、絶縁状態などを調べ、危険度と優先順位を整理することです。すべてを一度に新しくするのではなく、「今すぐ直す場所」「予算化して更新する場所」「経過を確認する場所」に分ければ、無理のない改修計画が立てられます。
太陽光と蓄電池は、電気代だけで判断しない
最近は、太陽光発電や蓄電池についての相談も増えています。国の検討資料でも、需要家側の蓄電池には電気代の削減に加え、災害や停電時のBCP対策という価値が期待されています。
ただし、蓄電池を付ければ必ず得をするわけではありません。停電時にどの設備を動かしたいのか、何時間必要なのか、太陽光の余剰電力がどれくらいあるのかを整理しなければ、容量が大きすぎたり、反対に必要な機器が動かなかったりします。冷蔵庫、通信機器、照明、井戸ポンプ、事務所のサーバーなど、「止められない負荷」を先に決めることが重要です。
工場や店舗、農業施設では、停電が数時間続くだけでも商品や生産に影響が出る場合があります。だからこそ、太陽光、蓄電池、発電機、非常用回路を別々に考えるのではなく、平常時の省エネと非常時の電源確保を一つの計画として設計する必要があります。
これからの電気工事は、建物の未来を設計する仕事
私たち茅根電設工業は、電気工事とは配線をつなぎ、照明を取り付けるだけの仕事ではないと考えています。分電盤の中、天井裏の配線、受変電設備、非常用電源。普段は目に入りにくい部分だからこそ、事故が起きない施工と、将来の増設や更新まで考えた設計が欠かせません。
AI時代の電力需要、電気料金の変化、猛暑や自然災害。大きなニュースに見えても、その対策の第一歩は意外に身近です。電気設備が古くなっていないか。契約容量と実際の使い方が合っているか。停電したとき、何が動き、何が止まるのか。まずは自社や自宅の電気を知ることから始まります。
電気は、見えません。けれど、会社の生産も、農業も、家族の暮らしも、地域の未来も、その見えない力に支えられています。
「点けばいい」から、「安全に、賢く、止まらずに使える」へ。
参考資料
電力広域的運営推進機関「全国及び供給区域ごとの需要想定(2026年度)」(2026年1月21日)
資源エネルギー庁「増加が見込まれるデータセンターの電力需要をどうする?」(2026年5月20日)
電力広域的運営推進機関「2026年度夏季の電力需給モニタリングについて」(2026年7月24日更新)
経済産業省「2026年7月、8月及び9月使用分の電気・ガス料金支援」(2026年6月12日)
東京電力エナジーパートナー「2026年4月1日からの特別高圧・高圧の標準メニューの見直し内容について」
資源エネルギー庁「分散型エネルギーリソースの施策の方向性を踏まえた対応について」(2026年4月15日)

